起業して個人事業主になり収入を得られるようになると、税金を支払わなくてはなりません。
個人事業主が支払うべき税金のなかに所得税や個人事業税などがありますが、どれくらいの税金が必要になるのか不安に思ったことはないでしょうか。
今回は、支払うべき税金のなかでも大きな負担となりがちな所得税のボーダーラインとなる事業所得と節税方法について、詳しく解説しています。
- 確定申告の前に所得税がどれくらいになるか知りたい
- 個人事業主が使える経費を詳しく知りたい
- 所得税を節約したいと思っている個人事業主
個人事業主は青色申告で確定申告することで最大65万円の節税効果がありますが、経費や所得控除を節税に役立てられることも忘れてはいけません。
所得税は特に大きな金額となりがちなので、確定申告で税金が決まってしまうまでに自分自身でも所得税額について把握し、所得税を支払うための準備しておくことも大切です。
この記事を読むことで、個人事業主が支払うべき所得税の計算方法や事業所得から差し引くことができる経費や所得控除、所得税の節税方法を知ることできるので、ぜひ最後までご覧になってください。
個人事業主が支払う税金は4種類
働く人が支払う税金のなかで、個人事業主が支払うべき税金は4種類あります。
事業所得によって計算された税金は、すべての個人事業主が支払うべき税金と、該当した個人事業主のみが支払う税金に分かれています。
すべての個人事業主が支払うべき税金2種類
個人事業主が確定申告でおこない事業所得をもとに計算された所得税は、税務署から自治体へ報告され住民税が決定されます。
- 所得税は国税のため国へ納付
- 住民税は地方税のため都道府県、市町村へ納付
所得税の分割支払いはありませんが、住民税は6月に一括払いするか6、8、10、1月の4回払いのどちらかを選択して納税します。
一定の売り上げや所得がある個人事業主のみ支払う税金2種類
一定の売り上げや事業所得がある個人事業主には、所得税と住民税以外に消費税や個人事業税が課せられることになります。
- 前々年の売り上げが1000万円を超えた場合は消費税
- 前年の事業所得が290万円を超えた場合は個人事業税
個人事業主の消費税は前々年の売り上げが対象ですが、起業してから2年を経過していないケースもありますよね。
その場合、前年の1月1日から6月30日の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納付が必要となります。
個人事業税は8月と11月に分けて都道府県へ納付することになりますが、支払った個人事業税は経費として計上することができるので忘れないようにしてください。
個人事業主の納税のなかで大きなウエイトを占める所得税
個人事業主が支払う4種類の税金のなかで、大きなウエイトを占めている税金が所得税です。
所得税は累進課税と呼ばれるもので、事業所得が多ければ多いほど税率があがっていく仕組みとなっています。
ここでは個人事業主の大きな負担となる所得税の計算方法を解説します。
収入と事業所得の『ちがい』とは?
1月1日から12月31日まで1年を通して得た年収のことを収入といい、経費を差し引いた金額を事業所得といいます。
経理に慣れていない個人事業主で収入と事業所得を混同してしまうケースがあり、間違った認識のまま確定申告をすると大変なことになってしまうので気をつけておかなければなりません。
収入から経費を差し引いた金額が事業所得となることを覚えておいてください。
- 1年間に得た金額が収入(年収)
- 収入(年収)から経費を差し引いた金額が事業所得
所得税は事業所得に対して計算されるため、収入から差し引く経費の金額が少なければ事業所得の金額が高くなり、支払う所得税の金額が多くなるということになります。
ただし「所得税を少なくしたい」という理由から、無理やり経費を多く使って事業所得を少なくすると思ってもいないデメリットが発生してしまうので注意しておいてくださいね。
- 黒字決算ができず融資の申し込みに影響が出る
- 無理やり経費について税務署の調査が入る
プライベートの領収書は使ったらダメですよねぇ。
プライベート費用を上乗せすると脱税で罰則があります!
事業所得をもとに所得税を計算する
所得税の金額は、収入から経費を差し引いた事業所得の金額を使って計算していきます。
- 収入-経費=事業所得額
- 事業所得額-所得控除の合計額=課税所得額
- 課税所得×税率-税率控除=所得税額
- 課税所得額×2.1%=復興特別所得税
- 所得税額+復興特別所得税額=納税する所得税
この計算途中で使われている所得税の税率が、個人事業主にとって非常に大きなポイントとなるので、所得税の税率に対するボーダーラインは覚えておいて損はありません。
事業所得からどれくらい経費を差し引けるかがポイントです。
起業して間もなく事業所得が少ない個人事業主の人も、フリーランスと同様に事業所得が48万円以下なら確定申告を行わなくて良いと思っている人もいるかもしれませんが、必ず確定申告は行っておいてくださいね。
所得税が課税される事業所得のボーダーラインと節税方法
所得税を計算するとき、一定の事業所得の金額を超えると一気に税率がアップしてしまい、事業所得の金額がそのボーダーラインを超えるかどうかによって所得税の金額に大きな違いがでます。
個人事業主の人は確定申告を青色と白色、どちらの申告方法を選んでも帳簿を作成しているはずですので、おおまかな収入はすぐに計算できるはずです。
つまり個人事業主の人は、毎月の事業収入や経過月数による事業収入の合計額をすぐに確認することができるはずですので、年末が近くなると事業所得の金額について考え、所得税のボーダーラインに注意しておくことも税金を増やさないコツとなります。
所得税の累進課税制度
「納税者それぞれに、支払える範囲で所得税を納めてもらおう」
平等性を保つため、日本の税金は累進課税制度を適用しており、所得が多いひとほど納税しなければならない税金が多くなるように税率が決められています。
累進課税制度には2つの種類が存在します。
- 課税所得が一定額を超えると、所得に対して高い税率が適用される単純累進課税制度
- 所得が一定額を超えると、超えた金額に対し高い税率が適用される超過累進課税制度
所得税には、累進課税制度のなかでも超過累進課税制度が適用されているので、所得が多ければ多いほど所得税は高くなる仕組みになっています。
一定の金額を超えるたびに所得税の税率が上がっていくため、税率が大きく跳ね上がる所得金額のボーダーラインは知っていて損はありません。
所得税が高くなる事業所得のボーダーラインと節税方法
所得税の計算には速算表を使うことになり、自分の事業所得を当てはめることで納税すべき所得税の金額を簡単に知ることができます。
課税される所得額 | 税率 | 税率控除 |
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
1,000円未満の課税所得は切り捨てしてから所得税の計算をしてくださいね。
この速算表を見てみると、329万9,000円を超えると税率は10%から20%、899万9,000円を超えると23%から33%へと、それぞれ10%上がっていることがわかります。
329万9,000円と899万9,000円の2つが課税される事業所得のボーダーラインとなり、それぞれのボーダーラインを超えるか超えないかで所得税の金額は大きくかわることになることがポイントです。
税率が変わるとそんなに影響出るもの?
どれくらい差額があるのかを知っておくことが大切なのです。
1つめの所得税に対する税率のボーダーラインとなる329万9,000円を基準に、前後の事業所得額における所得税の金額の差について考えてみます。
所得税率10%が適用となる319万9,000円に対する所得税
- 319万9,000円×10%-9万7,500円=22万2,400円 ≪所得税≫
- 319万9,000円×2.1%=6万7,179円 ≪復興特別所得税≫
- 22万2,400円+6万7,179円=28万9,579円 ≪納税する所得税≫
所得税率10%のボーダーラインとなる329万円9,000円に対する所得税
- 329万9,000円×10%-9万7,500円=23万2,400円 ≪所得税≫
- 329万9,000円×2.1%=6万9,279円 ≪復興特別所得税≫
- 23万2,400円+6万9,279円=30万1,670円 ≪納税する所得税≫
ボーダーラインを超え所得税率20%が適用となる339万9,000円に対する所得税
- 339万9,000円×20%-42万7,500円=25万2,300円 ≪所得税≫
- 339万9,000円×2.1%=7万1,379円 ≪復興特別所得税≫
- 25万2,300円+7万1,379円=32万3,679円 ≪納税する所得税≫
上記の3パターンを比較してみると以下のようになります。
課税される事業所得額 | 328万円5,000円 | 329万9,000円 | 339万円9,000円 |
---|---|---|---|
適用される税率 | 10% | 20% | |
税率控除 | 9万7,500円 | 42万7,500円 | |
納税する所得税 | 28万9,579円 | 30万1,670円 | 32万3,679円 |
所得税の差額 | ▲1万2,091円 | 基準 | 2万2,009円 |
ボーダーラインとなる課税される事業所得額329万9,000円を基準に前後10万円では、このように所得税の差が出ますが、差額を知るだけでなく節税に役立てることも事業主として必要な知識となります。
たとえば課税される事業所得額が339万9,000円となった場合、10万円の経費を利用して税率が10%となる課税される事業所得額まで引き下げることで税金が減るため、実質的な節税に役立てることができるようになるのです。
でも、そんな都合よく経費ってあるかんなぁ……
むやみに経費をつかう必要はありませんが、設備投資など予定している経費があれば前倒しにして経費を使うなど、個人事業主として運営と節税を心掛けることが大切です。
個人事業主が使える経費って?
「事業で得た収入の何パーセントまで経費が使えるのだろう?」
そのように考えたことはありませんか?
実は個人事業主が使うことができる経費の金額に上限はなく、事業にかかわる費用であればすべて経費として計上することができます。
それぞれの経費の内容を確認し、計上漏れのないようにしなければなりません。
経費を証明できる書類と保管期限
もしも税務署の調査が入ったとしても、申告した経費はすべて事業にかかわるものだと言えるよう経費として証明できる書類は必ず保管するようにしておきましょう。
経費を支払ったという証明ができる書類は領収書だけに限らず、作成された目的が金銭や有価証券の受取事実を証明できるものであれば使用することができます。
- 領収書
- 受取書
- レシート
- 預かり書
- 請求書や納品書に受取受領の記載があるもの
詳しくは国税庁『金銭又は有価証券の受取書、領収書』で知ることができます。
なお、個人事業主が経費の領収書などを保管する期限は決められており、どのように確定申告するかによって相違するので間違わないようにしておいてください。
- 白色申告なら5年間
- 青色申告なら7年間
青色申告であっても前々年の所得が300万円以下の場合は、領収書などの保管は5年で良いとされています。
個人事業主が使える経費の項目は?
経費として支払った費用は、経理で様々な勘定科目にわけて会計する必要があります。
ここでは悩んでしまいそうな経費も含めて、どのような勘定科目に該当するのかを解説しているので参考にしてください。
勘定科目 | 概要 |
租税公課 | 税金など公的な支払いをした費用 |
荷造運賃 | 荷物の梱包や運賃に対する費用 |
水道光熱費 | 電気、ガス、水道の費用 |
旅費交通費 | 移動、宿泊費用 |
通信費 | 郵便、電話、インターネット費用 |
広告宣伝費 | 事業や商品を宣伝するための広告費用 |
接待交通費 | 接待や贈答で支払った費用 |
損害保険料 | 自動車、火災などの損害保険の保険料 |
修繕費 | 建物、機械などの修理費用 |
消耗品費 | 10万円以下または使用可能が1年未満の消耗品費の費用 |
減価償却費 | 10万円かつ1年以上使用可能のものを分割計上する費用 |
複利厚生費 | 従業員の慰安、医療、保険などの費用 |
給料賃金 | 従業員に支払った給与 |
外注工費 | 外部へ業務委託して支払った費用 |
利子割引料 | 借入金に対して支払った利息、分割払いの手数料 |
地代家賃 | 事務所などの家賃や使用料 |
貸倒金 | 取引先から回収できなかった損害金 |
雑費 | どの勘定項目にも当てはまらない経費 |
個人事業主はプライベートで使用しているものを事業でも併用している場合、それぞれ事業に使う割合に対し発生した費用を経費に計上することができ、これを家事按分といいます。
- 家賃や光熱費
- 携帯などの通信費
- ガソリン代や駐車場代
ガソリン代を家事按分する場合、事業で使用したときの行先などを記録するなど、家事按分する際の明確な資料や根拠に基づいて経費に計上することが大切です。
個人事業主が経費として使える金額に上限はないため、事業に使った費用は漏れなく申告し節税に役立てるようにしておいてくださいね。
個人事業主におすすめ!所得税の節税方法
個人事業主の収入は生活費に直結することになるため、まだ事業が安定していない起業から間もない個人事業主ほど節税に対して敏感になっておく必要があります。
個人事業主におすすめする所得税の節税方法を参考に、かしこくお得な事業運営を心掛けるようにしてみてください。
個人事業主なら節税効果が抜群の青色申告をすべし
確定申告で青色申告をするためには青色申告承認届を提出しておく必要がありますが、誰もが利用できる白色申告とは違い大きな節税効果があるので、個人事業主はぜひ活用するようにしておいてください。
ただし、同じ青色申告であっても経理の方法や提出方法によっては、利用できる控除を最大限に利用できない場合があるので注意しておきましょう。
確定申告の方法 | 白色申告 | 青色申告 | ||
---|---|---|---|---|
特別控除 | なし | 10万円 | 55万円 | 65万円 |
記帳方法 | 簡易で可能 | 簡易簿記 | 複式簿記 | |
添付書類 | 収支内訳書 | 青色申告決算書 ※貸借対照表の義務なし | 青色申告決算書 | |
帳簿 | 簡易帳簿で可能 | 現金出納帳 経費出納帳 売掛帳 買掛帳 固定資産税台帳 | 総勘定元帳 仕分帳 (補助簿) 現金出納帳 売掛帳 買掛帳 固定資産税台帳 | |
提出方法 | 持参 郵送 e-Tax | e-Tax |
e-Taxで青色申告をする場合、帳簿は電子帳簿保存を利用しても65万円の特別控除を利用することができます。
複式簿記や帳簿の作成など、専門知識が必要となる青色申告ですが節税においては最大の効果が期待できるので、ぜひ個人事業主の人には利用して欲しい確定申告の方法です。
生命保険や個人年金、医療費などの所得控除は忘れずに利用すべし
確定申告で利用できる所得控除には、基礎控除や扶養控除、社会保険料控除など様々な種類がありますが、自分自身で計算して申告しなければならない所得控除もあるので忘れずに活用してください。
- 生命保険料控除
- 個人年金保険控除
- 医療費控除
- セルフメディケーション税制
医療費は10万円超えていないと意味がないんじゃ……
実は……10万円にこだわる必要はないんです!
医療費控除やセルフメディケーション税制の活用については、Venusのブログで詳しく知ることができるので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
生命保険や個人年金の保険料控除は旧制度や新制度のちがいで計算方法が変わり、わずらわしさを感じることもありますが、計算方法をわかりやすく解説しているVenusのブログを参考にして計算してみてくださいね。
iDeCoで老後に備えながら節税を心掛けるべし
個人事業主は社会保険に加入できないため、基礎年金となる国民年金が老後を生きていくための資金となります。
2022年4月から2023年5月の国民年金保険料は16,590円で、将来受給できる年金額は月額64,816円が最高額なので、豊な老後を送るためには自助努力が欠かせません。
毎月の国民年金保険料に上乗せし国民年金基金に加入する方法がありますが、老後への備えは大きな節税効果のあるiDeCoが個人事業主におすすめです。
個人事業主におすすめのiDeCoには3つのメリットがあります。
- 掛金の全額が所得控除になる
- 運用で得た利益は非課税になる
- 年金の受け取りも控除が利用できる
iDeCoには様々なメリットがある反面、拠出したお金は一定の年齢になるまで引き出せないというデメリットもありますが、老後の資金準備には個人事業主にとって最適な方法となっています。
iDeCoについて詳しく知りたい場合は、関連記事を参考にしてみてくださいね。
まとめ
個人事業主は事業と生活を支える必要があり、得た収入を守るために節税に対する知識を備えておかなければなりません。
確定申告では、経費や様々な控除を差し引いて所得税を計算することになりますが、税率のことも視野にいれながら賢く節税を心掛けることが大切です。
所得税の節税をしたいなら、経費の種類や節税効果のある申告方法などを覚えて、事業の運営に役立ててくださいね。